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ワイヤーカット加工の基礎と実務で必要な条件設定を正しく理解するための専門ガイド

ワイヤーカット加工とは、放電加工の一種であり、極細ワイヤーを電極として金属を溶融・除去することで高精度な形状を作り出す加工方法です。本記事では、ワイヤーカット加工の仕組みから精度、使用する材料、加工条件、トラブル防止策まで、実務レベルで必要となる内容を体系的に整理して解説します。
また加工材質の種類による影響については、金属材料の種類に関して解説で詳しく解説しています。

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目次

ワイヤーカット加工とは何か:仕組みと特徴

ワイヤーカット加工(Wire Cut EDM)は、電気的放電によって金属を溶融・蒸発させて除去する加工方法です。ワイヤー(主に黄銅や被覆ワイヤー)が電極として使用され、ワークとの間に放電が発生することで高精度の切断・形状加工が可能になります。

基本特性は以下の通りです。

  • 非接触加工のため、加工力によるびびり・変形が発生しにくい
  • 高硬度材料(SKD、超硬、ハステロイなど)でも加工可能
  • ±1〜3μmクラスの高精度を実現できる
  • 複雑形状・微細形状に強い
  • 加工速度は比較的遅い(放電除去量の制約)

ワイヤーカットの加工方式(粗加工と仕上げ加工)

ワイヤーカット加工は一般的に複数パスで行われます。

加工パス 目的 特徴
粗加工(1st Cut) 形状を大まかに成形 スピード重視・仕上り粗い
中仕上げ(2nd Cut) 精度向上のための補正 粗加工の変質層除去
仕上げ加工(3rd Cut以降) 最終寸法精度・面粗度の確保 ±1〜3μmの精度が可能

パス数を多くすると精度は向上しますが、加工時間は増大します。製造現場では、製品要求精度とコストのバランスを見てパス数を決定することが一般的です。

ワイヤーカット加工で扱える材料

ワイヤーカット加工は導電性のある材料にのみ適用されます。以下は代表例です。

  • 炭素鋼(S45C、S50C)
  • 工具鋼(SKD11、SKH51など)
  • ステンレス鋼(SUS304、SUS420など)
  • アルミニウム(A5052、A7075など)
  • 銅・銅合金(C1100、C2680など)
  • チタン・チタン合金
  • 超硬合金

導電性が低い材料への対策

一部の材料(タングステン、超硬など)では導電性が低く加工が遅くなるため、加工条件設定が重要です。放電ギャップ、電流設定、パルス幅を調整することで加工の安定性を確保できます。

加工精度に影響する5つの要因

ワイヤーカット加工では、以下の要素が精度を大きく左右します。

  1. ワイヤー電極の種類(黄銅 / コーティングワイヤー)
  2. 張力と送り量(ワイヤーテンションとワイヤースピード)
  3. 放電条件(パルス電流・パルス幅・オフタイム)
  4. 加工液の供給量と水圧
  5. ワーク厚みと熱変形

とくにパルス条件(ピーク電流・オンタイム・オフタイム)は粗加工と仕上げで大きく変わります。
以下に、一般的な目安の比較表を示します。

項目 粗加工 仕上げ加工
ピーク電流
パルス幅 広い 狭い
加工速度 速い 遅い
精度 ±0.02〜0.05mm ±1〜3μm

工具の選び方については、工具選定に関して解説で詳しく解説しています。

ワイヤーカット加工におけるトラブルと対策

1. ワイヤー断線

ワイヤー断線は最も多いトラブルです。原因は以下が代表的です。

  • 張力が高すぎる
  • 電流設定が過大
  • ワークの厚みが急変している
  • 加工液の供給不足

解決策としては「パルス電流を下げる」「テンションを調整する」「加工液供給量を増やす」が基本となります。

2. 形状精度が出ない

以下の要因が考えられます。

  • ワイヤーの振れ(スイング)が大きい
  • ワーク変形
  • 仕上げパスが不足
  • 水圧が強すぎてワイヤーが流される

特に水圧は見落とされがちですが、細い形状では圧力過多によりワイヤーが押し流される現象が頻繁に起こります。

3. 面粗さが悪い

面粗さは仕上げパスの数とパルス条件に大きく依存します。仕上げパスを3回以上設定することで顕著に改善する場合が多いです。

加工時間の考え方:速度を決める3要素

加工時間は以下の3つでほぼ決まります。

  1. ワーク厚み
  2. 放電条件(粗加工・仕上げ)
  3. 形状の複雑度(コーナーR・ピン角など)

一般的に厚みが倍になると、加工時間もほぼ比例して増加します。複雑形状ではコーナーで減速するため、単純な外形切断よりも時間がかかる点に注意が必要です。

ワイヤーカット加工が向いている製品・加工例

  • 金型部品(パンチ・ダイ・インサートパーツ)
  • 微細・高精度加工品
  • 複雑なスリット形状
  • 厚板の精密切断
  • 微細溝・細幅加工

よくある質問

ワイヤーカット加工でどのくらいの精度が出せますか?
一般的には±1〜3μmほどの高精度が可能ですが、材料の厚みや放電条件によって変動します。特に仕上げパスの回数が精度に大きく影響し、3回以上行うことで面粗さも安定します。
ワイヤーカット加工で加工できない材料はありますか?
ワイヤーカット加工は導電性がある材料に限定されるため、樹脂・セラミック・ガラスなどは基本的に加工できません。導電性が低い材料は加工速度が著しく遅くなる場合があります。
ワイヤー断線が多発する原因と対策はありますか?
ワイヤー断線は「ワイヤーテンション過多」「電流設定が大きい」「加工液不足」などが主な原因です。パルス条件の調整と水圧管理が効果的な対策です。
加工時間はどの要素で決まりますか?
加工時間は「ワーク厚み」「放電条件(粗加工・仕上げ)」「形状の複雑さ」の3要素で大きく変わります。特に厚みは時間に比例して増加する重要因子です。

まとめ:ワイヤーカット加工の理解が生産性と品質を大きく左右する

ワイヤーカット加工とは、高精度・非接触・高硬度材対応という強みを持ち、金属加工現場で不可欠な加工技術です。精度を出すためには、ワイヤー選定、放電条件、水圧管理、材料特性など多くの要因が複雑に関係します。
本記事で紹介した内容を理解することで、加工精度の安定化、加工時間短縮、トラブル防止に直結します。

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