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磁石に反応しない金属とは?種類・特性・見分け方を徹底解説

磁石に反応しない金属の種類と特性|非磁性金属の完全ガイド

製造現場や材料選定の場面で「この金属は磁石にくっつくのか?」という疑問に直面することは少なくありません。磁石に反応しない金属は、実は私たちの身の回りに数多く存在しており、それぞれが独自の特性を持っています。本記事では、非磁性金属の種類、磁性が生じるメカニズム、そして実務での材料選定ポイントまで、製造業・加工現場で必要な知識を体系的に解説します。

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目次

金属の磁性とは?磁石に反応するメカニズム

金属が磁石に反応するかどうかは、その金属の電子配置結晶構造によって決まります。磁性を持つ金属は、原子内の電子スピンが一方向に揃うことで、全体として磁気モーメントを生じます。代表的な磁性金属である鉄(Fe)ニッケル(Ni)コバルト(Co)は、不対電子を多く持ち、外部磁場によって磁化される強磁性体に分類されます。

一方、磁石に反応しない金属は、電子スピンが打ち消し合う配置になっているか、結晶構造が磁気モーメントの発生を妨げています。これらの金属は非磁性体または常磁性体と呼ばれ、磁場の影響をほとんど受けません。材料選定においては、この磁性の有無が重要な判断基準となるケースが多く、特に電子機器や医療機器、精密測定装置などの分野では非磁性材料が必須となります。

磁石に反応しない主要金属の種類と特性

銅(Cu)とその合金

は最も代表的な非磁性金属の一つです。優れた電気伝導性熱伝導性を持ち、展延性にも優れているため、電線、配管、熱交換器など幅広い用途で使用されています。銅の電子配置は完全に対になっており、磁気モーメントを生じません。純銅の密度は約8.96g/cm³で、比較的重い金属に分類されますが、加工性の良さから製造現場では扱いやすい材料として知られています。

銅の合金である黄銅(真鍮)青銅も非磁性材料です。黄銅は銅と亜鉛の合金で、装飾品や配管部品に広く使われ、青銅は銅とスズの合金で、耐食性と強度が求められる用途に適しています。これらの銅合金は、純銅よりも機械的強度が高く、用途に応じて組成比を調整することで特性をコントロールできる点が特徴です。

アルミニウム(Al)とその合金

アルミニウムは軽量で耐食性に優れた非磁性金属です。密度が約2.70g/cm³と鉄の約3分の1という軽さながら、適切な合金化によって高い強度を実現できます。航空機部材、自動車部品、建築材料など、軽量化が求められる分野で広く採用されています。アルミニウムの表面には自然に酸化皮膜が形成され、これが優れた耐食性をもたらします。

アルミニウム合金には、ジュラルミン(Al-Cu-Mg系)、超々ジュラルミン(Al-Cu-Mg-Zn系)など、用途に応じた多様な種類が存在します。いずれも非磁性を維持しながら、純アルミニウムよりも高い強度を持ちます。切削加工性も良好で、押出、鍛造、鋳造など多様な加工方法に対応できるため、製造現場での使い勝手に優れています。

ステンレス鋼(オーステナイト系)

ステンレス鋼には磁性を持つものと持たないものがあり、オーステナイト系ステンレスは代表的な非磁性ステンレスです。最も一般的なSUS304SUS316は、クロム18%、ニッケル8%程度を含み、面心立方格子構造(FCC)を持つため磁石に反応しません。これらは優れた耐食性と加工性を兼ね備え、食品機器、化学プラント、医療機器など幅広い分野で使用されています。

ただし、オーステナイト系ステンレスは冷間加工によって加工誘起マルテンサイト変態が起こり、部分的に磁性を帯びることがあります。曲げ加工や深絞り加工を施した部分では、わずかに磁石に反応する場合があるため、厳密な非磁性が求められる用途では注意が必要です。一方、フェライト系ステンレス(SUS430など)マルテンサイト系ステンレス(SUS420など)は体心立方格子構造を持ち、磁性を示します。

チタン(Ti)とその合金

チタンは高い比強度(強度÷密度)と優れた耐食性を持つ非磁性金属です。密度は約4.51g/cm³で、鉄よりも軽く、アルミニウムよりも強度が高いという特性を持ちます。航空宇宙産業、化学プラント、医療用インプラントなど、過酷な環境下で使用される部品に採用されています。チタンは生体適合性にも優れており、人工関節や骨接合材などの医療分野でも重宝されています。

チタン合金には、純チタンに近いα型、強度の高いβ型、両者の特性を併せ持つα+β型があり、代表的なTi-6Al-4V合金はα+β型に分類されます。いずれも非磁性を保ちながら、用途に応じた特性を実現しています。ただし、チタンは加工が難しく、工具摩耗が激しいため、切削条件の最適化が重要となります。

その他の非磁性金属

亜鉛(Zn)錫(Sn)鉛(Pb)などの軟質金属も非磁性です。亜鉛はめっき材料として広く使用され、鉄材の防食に貢献しています。錫ははんだの主成分であり、電子部品の接合に不可欠です。マグネシウム(Mg)は実用金属の中で最も軽量(密度約1.74g/cm³)な非磁性金属であり、ノートパソコンの筐体やカメラボディなど、軽量化が重視される製品に採用されています。

貴金属である金(Au)銀(Ag)白金(Pt)もすべて非磁性です。これらは電気伝導性、耐食性、触媒特性に優れ、電子部品、装飾品、化学工業用途で重要な役割を果たしています。また、タングステン(W)モリブデン(Mo)といった高融点金属も非磁性であり、高温環境下での用途に適しています。

磁性金属と非磁性金属の比較表

金属名 磁性 密度(g/cm³) 主な特性 代表的用途
鉄(Fe) 磁性あり 7.87 高強度、安価 構造材、機械部品
ニッケル(Ni) 磁性あり 8.90 耐食性、展延性 めっき、合金材料
コバルト(Co) 磁性あり 8.90 高温強度、磁性 超合金、永久磁石
銅(Cu) 非磁性 8.96 高導電性、展延性 電線、配管
アルミニウム(Al) 非磁性 2.70 軽量、耐食性 航空機、建材
SUS304 非磁性 7.93 耐食性、加工性 食品機器、化学装置
SUS430 磁性あり 7.70 耐食性、低コスト 家電、建築部材
チタン(Ti) 非磁性 4.51 高比強度、耐食性 航空機、医療機器
マグネシウム(Mg) 非磁性 1.74 超軽量、切削性 電子機器筐体

非磁性金属が求められる用途と選定基準

電子機器・精密測定装置

電子回路や精密測定装置では、磁場の影響を避けることが重要です。磁性材料が近くにあると、電磁ノイズの発生や測定精度の低下を招く可能性があります。このため、電子機器の筐体やシールドには、アルミニウムや銅、非磁性ステンレスが選ばれます。特にMRI装置の周辺では、強力な磁場によって磁性材料が引き寄せられる危険性があるため、厳格に非磁性材料が指定されます。

計測器のフレームや治具にも非磁性材料が必須です。磁気センサーやホール素子を使った測定では、わずかな磁性でも誤差の原因となるため、アルミニウム合金や真鍮製の治具が標準的に使用されます。また、半導体製造装置では、静電気対策と同時に非磁性も求められるため、特殊なアルミニウム合金やステンレス鋼が採用されています。

医療・ヘルスケア分野

医療用インプラントや手術器具には、生体適合性非磁性を兼ね備えた材料が必要です。チタンおよびチタン合金は、MRI検査時の安全性と生体親和性の両面で優れているため、人工関節、骨プレート、歯科インプラントなどに広く使用されています。オーステナイト系ステンレス(SUS316L)も医療グレードの材料として認められていますが、チタンほどの生体適合性はありません。

MRI対応の医療機器では、患者の体内に留置するペースメーカーや埋込型除細動器(ICD)のケースにも非磁性材料が使われます。これらの機器は強磁場環境下でも動作を継続する必要があり、チタン合金製のケースが標準となっています。また、手術室で使用される器具台やカートも、MRI室への持ち込みを考慮して非磁性ステンレス製のものが増えています。

航空宇宙・輸送機器

航空機では軽量化が最重要課題であり、同時に構造強度も確保する必要があります。アルミニウム合金(2000系、7000系)とチタン合金は、高い比強度を持つ非磁性材料として、機体構造、エンジン部品、降着装置などに多用されています。特にジェットエンジンの高温部には、ニッケル基超合金とともにチタン合金が使用され、軽量化と耐熱性を両立しています。

人工衛星や宇宙船では、地球磁場や宇宙空間の磁場との相互作用を最小化するため、構造材に非磁性材料が選ばれます。

化学プラント・食品産業

化学プラントでは、耐食性非汚染性が重視されます。オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)は、酸やアルカリに対する耐性が高く、金属イオンの溶出も少ないため、反応槽、配管、ポンプなどに広く使用されています。特に医薬品製造や食品加工では、製品への金属混入を防ぐため、非磁性ステンレスが標準仕様となっています。

食品工場では、金属検出器を通過させる工程があるため、装置のフレームやコンベアには非磁性材料が必須です。磁性材料を使用すると、金属検出器の感度調整が困難になり、異物混入のリスクが高まります。また、クリーンルームを必要とする製薬工場では、ステンレス製の作業台、搬送装置、配管システムがすべて非磁性材料で統一されています。

磁性の有無を判定する方法と注意点

簡易的な磁石テスト

最も簡単な磁性判定方法は、永久磁石を材料に近づけることです。磁石が引き寄せられれば磁性あり、反応しなければ非磁性と判断できます。ただし、この方法にはいくつかの注意点があります。第一に、弱い常磁性を持つ材料は、一般的な永久磁石では反応を検出できません。第二に、オーステナイト系ステンレスのように、加工によって部分的に磁性を帯びる材料は、場所によって判定結果が異なる可能性があります。

製造現場では、ネオジム磁石のような強力な磁石を使用することで、微弱な磁性も検出できます。ただし、強力な磁石は取り扱いに注意が必要で、指を挟むなどの事故リスクもあるため、安全管理が重要です。また、磁石テストは材料表面の状態にも影響されるため、油や汚れを除去してから実施することが推奨されます。

透磁率測定による定量評価

より精密な磁性評価が必要な場合は、透磁率測定器を使用します。透磁率(μ)は、物質が磁化される度合いを示す指標で、真空の透磁率(μ₀)に対する比として表される比透磁率(μr)で評価されます。非磁性材料の比透磁率はほぼ1.0であり、強磁性材料は数百から数万の値を示します。透磁率測定により、材料の磁性を定量的に評価でき、用途に応じた基準値との比較が可能になります。

JIS規格やASTM規格では、非磁性ステンレス鋼の透磁率基準が定められており、例えばSUS304では「比透磁率1.02以下」が目安とされています。測定方法には、コイル法、磁気天秤法、VSM(振動試料型磁力計)などがあり、要求精度に応じて選択します。材料試験機関では、これらの装置を用いた受託分析サービスを提供しており、材料選定の最終確認に利用できます。

材料証明書の確認

材料メーカーから提供されるミルシート(材料証明書)には、化学成分、機械的性質とともに、磁性に関する情報が記載されている場合があります。特に医療用途や精密機器用途向けの材料では、透磁率の実測値が明記されていることが多く、これを基に材料の適合性を判断できます。ミルシートの読み方や、どの項目を確認すべきかを理解しておくことは、調達担当者や設計者にとって重要なスキルです。

ただし、ミルシートは製造ロットごとに発行されるため、同じ材料記号でもロットが異なれば特性値にばらつきが生じる可能性があります。クリティカルな用途では、入荷した材料に対して自社で磁性検査を実施し、トレーサビリティを確保することが推奨されます。また、ステンレス鋼のように加工で磁性が変化する材料では、最終製品での再検査も検討すべきです。

加工時の注意点と非磁性の維持

オーステナイト系ステンレスの加工誘起磁性

オーステナイト系ステンレスは本来非磁性ですが、冷間加工によって結晶構造が変化し、部分的にマルテンサイト組織が生成されることがあります。この現象を加工誘起マルテンサイト変態と呼び、曲げ加工、深絞り加工、圧延、切削などの加工で発生します。加工度が大きいほど、また加工温度が低いほど、磁性が強く現れる傾向があります。

この磁性を抑制するためには、以下の対策が有効です。第一に、安定化処理を施した材料(SUS316やSUS316Lなど)を選定すること。これらはニッケル含有量が高く、マルテンサイト変態が起こりにくい組成になっています。第二に、加工後に固溶化熱処理(1000~1100℃での加熱後急冷)を行うことで、マルテンサイト組織をオーステナイト組織に戻すことができます。第三に、加工条件を最適化し、過度な加工歪みを避けることです。

切削加工における工具選定と条件設定

非磁性金属の中でも、チタンやオーステナイト系ステンレスは難削材として知られています。これらの材料は熱伝導率が低く、加工硬化しやすいため、切削時に工具に大きな負荷がかかります。適切な工具材質と切削条件の選定が、加工品質と工具寿命を左右します。

チタン加工では、超硬合金サーメット工具が推奨されます。切削速度は鋼材の1/3~1/4程度に抑え、切り込み量を浅くして送り速度を上げることで、工具への熱集中を避けます。

金属の磁性とは?磁石に反応するメカニズム

金属が磁石に反応するかどうかは、その金属の電子配置結晶構造によって決まります。磁性を持つ金属は、原子内の電子スピンが一方向に揃うことで、全体として磁気モーメントを生じます。代表的な磁性金属である鉄(Fe)ニッケル(Ni)コバルト(Co)は、不対電子を多く持ち、外部磁場によって磁化される強磁性体に分類されます。

一方、磁石に反応しない金属は、電子スピンが打ち消し合う配置になっているか、結晶構造が磁気モーメントの発生を妨げています。これらの金属は非磁性体または常磁性体と呼ばれ、磁場の影響をほとんど受けません。材料選定においては、この磁性の有無が重要な判断基準となるケースが多く、特に電子機器や医療機器、精密測定装置などの分野では非磁性材料が必須となります。

磁石に反応しない主要金属の種類と特性

銅(Cu)とその合金

は最も代表的な非磁性金属の一つです。優れた電気伝導性熱伝導性を持ち、展延性にも優れているため、電線、配管、熱交換器など幅広い用途で使用されています。銅の電子配置は完全に対になっており、磁気モーメントを生じません。純銅の密度は約8.96g/cm³で、比較的重い金属に分類されますが、加工性の良さから製造現場では扱いやすい材料として知られています。

銅の合金である黄銅(真鍮)青銅も非磁性材料です。黄銅は銅と亜鉛の合金で、装飾品や配管部品に広く使われ、青銅は銅とスズの合金で、耐食性と強度が求められる用途に適しています。これらの銅合金は、純銅よりも機械的強度が高く、用途に応じて組成比を調整することで特性をコントロールできる点が特徴です。

アルミニウム(Al)とその合金

アルミニウムは軽量で耐食性に優れた非磁性金属です。密度が約2.70g/cm³と鉄の約3分の1という軽さながら、適切な合金化によって高い強度を実現できます。航空機部材、自動車部品、建築材料など、軽量化が求められる分野で広く採用されています。アルミニウムの表面には自然に酸化皮膜が形成され、これが優れた耐食性をもたらします。

アルミニウム合金には、ジュラルミン(Al-Cu-Mg系)、超々ジュラルミン(Al-Cu-Mg-Zn系)など、用途に応じた多様な種類が存在します。いずれも非磁性を維持しながら、純アルミニウムよりも高い強度を持ちます。切削加工性も良好で、押出、鍛造、鋳造など多様な加工方法に対応できるため、製造現場での使い勝手に優れています。

ステンレス鋼(オーステナイト系)

ステンレス鋼には磁性を持つものと持たないものがあり、オーステナイト系ステンレスは代表的な非磁性ステンレスです。最も一般的なSUS304SUS316は、クロム18%、ニッケル8%程度を含み、面心立方格子構造(FCC)を持つため磁石に反応しません。これらは優れた耐食性と加工性を兼ね備え、食品機器、化学プラント、医療機器など幅広い分野で使用されています。

ただし、オーステナイト系ステンレスは冷間加工によって加工誘起マルテンサイト変態が起こり、部分的に磁性を帯びることがあります。曲げ加工や深絞り加工を施した部分では、わずかに磁石に反応する場合があるため、厳密な非磁性が求められる用途では注意が必要です。一方、フェライト系ステンレス(SUS430など)マルテンサイト系ステンレス(SUS420など)は体心立方格子構造を持ち、磁性を示します。

チタン(Ti)とその合金

チタンは高い比強度(強度÷密度)と優れた耐食性を持つ非磁性金属です。密度は約4.51g/cm³で、鉄よりも軽く、アルミニウムよりも強度が高いという特性を持ちます。航空宇宙産業、化学プラント、医療用インプラントなど、過酷な環境下で使用される部品に採用されています。チタンは生体適合性にも優れており、人工関節や骨接合材などの医療分野でも重宝されています。

チタン合金には、純チタンに近いα型、強度の高いβ型、両者の特性を併せ持つα+β型があり、代表的なTi-6Al-4V合金はα+β型に分類されます。いずれも非磁性を保ちながら、用途に応じた特性を実現しています。ただし、チタンは加工が難しく、工具摩耗が激しいため、切削条件の最適化が重要となります。

その他の非磁性金属

亜鉛(Zn)錫(Sn)鉛(Pb)などの軟質金属も非磁性です。亜鉛はめっき材料として広く使用され、鉄材の防食に貢献しています。錫ははんだの主成分であり、電子部品の接合に不可欠です。マグネシウム(Mg)は実用金属の中で最も軽量(密度約1.74g/cm³)な非磁性金属であり、ノートパソコンの筐体やカメラボディなど、軽量化が重視される製品に採用されています。

貴金属である金(Au)銀(Ag)白金(Pt)もすべて非磁性です。これらは電気伝導性、耐食性、触媒特性に優れ、電子部品、装飾品、化学工業用途で重要な役割を果たしています。また、タングステン(W)モリブデン(Mo)といった高融点金属も非磁性であり、高温環境下での用途に適しています。

磁性金属と非磁性金属の比較表

金属名 磁性 密度(g/cm³) 主な特性 代表的用途
鉄(Fe) 磁性あり 7.87 高強度、安価 構造材、機械部品
ニッケル(Ni) 磁性あり 8.90 耐食性、展延性 めっき、合金材料
コバルト(Co) 磁性あり 8.90 高温強度、磁性 超合金、永久磁石
銅(Cu) 非磁性 8.96 高導電性、展延性 電線、配管
アルミニウム(Al) 非磁性 2.70 軽量、耐食性 航空機、建材
SUS304 非磁性 7.93 耐食性、加工性 食品機器、化学装置
SUS430 磁性あり 7.70 耐食性、低コスト 家電、建築部材
チタン(Ti) 非磁性 4.51 高比強度、耐食性 航空機、医療機器
マグネシウム(Mg) 非磁性 1.74 超軽量、切削性 電子機器筐体

非磁性金属が求められる用途と選定基準

電子機器・精密測定装置

電子回路や精密測定装置では、磁場の影響を避けることが重要です。磁性材料が近くにあると、電磁ノイズの発生や測定精度の低下を招く可能性があります。このため、電子機器の筐体やシールドには、アルミニウムや銅、非磁性ステンレスが選ばれます。特にMRI装置の周辺では、強力な磁場によって磁性材料が引き寄せられる危険性があるため、厳格に非磁性材料が指定されます。

計測器のフレームや治具にも非磁性材料が必須です。磁気センサーやホール素子を使った測定では、わずかな磁性でも誤差の原因となるため、アルミニウム合金や真鍮製の治具が標準的に使用されます。また、半導体製造装置では、静電気対策と同時に非磁性も求められるため、特殊なアルミニウム合金やステンレス鋼が採用されています。

医療・ヘルスケア分野

医療用インプラントや手術器具には、生体適合性非磁性を兼ね備えた材料が必要です。チタンおよびチタン合金は、MRI検査時の安全性と生体親和性の両面で優れているため、人工関節、骨プレート、歯科インプラントなどに広く使用されています。オーステナイト系ステンレス(SUS316L)も医療グレードの材料として認められていますが、チタンほどの生体適合性はありません。

MRI対応の医療機器では、患者の体内に留置するペースメーカーや埋込型除細動器(ICD)のケースにも非磁性材料が使われます。これらの機器は強磁場環境下でも動作を継続する必要があり、チタン合金製のケースが標準となっています。また、手術室で使用される器具台やカートも、MRI室への持ち込みを考慮して非磁性ステンレス製のものが増えています。

航空宇宙・輸送機器

航空機では軽量化が最重要課題であり、同時に構造強度も確保する必要があります。アルミニウム合金(2000系、7000系)とチタン合金は、高い比強度を持つ非磁性材料として、機体構造、エンジン部品、降着装置などに多用されています。特にジェットエンジンの高温部には、ニッケル基超合金とともにチタン合金が使用され、軽量化と耐熱性を両立しています。

人工衛星や宇宙船では、地球磁場や宇宙空間の磁場との相互作用を最小化するため、構造材に非磁性材料が選ばれます。また、精密な姿勢制御を行う衛星では、磁気トルカ(磁気トルク装置)の性能に影響を与えないよう、周辺構造を非磁性材料で構成します。自動車産業でも、電気自動車(EV)のモーター周辺部品や、電磁シールドが必要な電装品には、アルミニウムや非磁性ステンレスが採用されています。

化学プラント・食品産業

化学プラントでは、耐食性非汚染性が重視されます。オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)は、酸やアルカリに対する耐性が高く、金属イオンの溶出も少ないため、反応槽、配管、ポンプなどに広く使用されています。特に医薬品製造や食品加工では、製品への金属混入を防ぐため、非磁性ステンレスが標準仕様となっています。

食品工場では、金属検出器を通過させる工程があるため、装置のフレームやコンベアには非磁性材料が必須です。磁性材料を使用すると、金属検出器の感度調整が困難になり、異物混入のリスクが高まります。また、クリーンルームを必要とする製薬工場では、ステンレス製の作業台、搬送装置、配管システムがすべて非磁性材料で統一されています。

磁性の有無を判定する方法と注意点

簡易的な磁石テスト

最も簡単な磁性判定方法は、永久磁石を材料に近づけることです。磁石が引き寄せられれば磁性あり、反応しなければ非磁性と判断できます。ただし、この方法にはいくつかの注意点があります。第一に、弱い常磁性を持つ材料は、一般的な永久磁石では反応を検出できません。第二に、オーステナイト系ステンレスのように、加工によって部分的に磁性を帯びる材料は、場所によって判定結果が異なる可能性があります。

製造現場では、ネオジム磁石のような強力な磁石を使用することで、微弱な磁性も検出できます。ただし、強力な磁石は取り扱いに注意が必要で、指を挟むなどの事故リスクもあるため、安全管理が重要です。また、磁石テストは材料表面の状態にも影響されるため、油や汚れを除去してから実施することが推奨されます。

透磁率測定による定量評価

より精密な磁性評価が必要な場合は、透磁率測定器を使用します。透磁率(μ)は、物質が磁化される度合いを示す指標で、真空の透磁率(μ₀)に対する比として表される比透磁率(μr)で評価されます。非磁性材料の比透磁率はほぼ1.0であり、強磁性材料は数百から数万の値を示します。透磁率測定により、材料の磁性を定量的に評価でき、用途に応じた基準値との比較が可能になります。

JIS規格やASTM規格では、非磁性ステンレス鋼の透磁率基準が定められており、例えばSUS304では「比透磁率1.02以下」が目安とされています。測定方法には、コイル法、磁気天秤法、VSM(振動試料型磁力計)などがあり、要求精度に応じて選択します。材料試験機関では、これらの装置を用いた受託分析サービスを提供しており、材料選定の最終確認に利用できます。

材料証明書の確認

材料メーカーから提供されるミルシート(材料証明書)には、化学成分、機械的性質とともに、磁性に関する情報が記載されている場合があります。特に医療用途や精密機器用途向けの材料では、透磁率の実測値が明記されていることが多く、これを基に材料の適合性を判断できます。ミルシートの読み方や、どの項目を確認すべきかを理解しておくことは、調達担当者や設計者にとって重要なスキルです。

ただし、ミルシートは製造ロットごとに発行されるため、同じ材料記号でもロットが異なれば特性値にばらつきが生じる可能性があります。クリティカルな用途では、入荷した材料に対して自社で磁性検査を実施し、トレーサビリティを確保することが推奨されます。また、ステンレス鋼のように加工で磁性が変化する材料では、最終製品での再検査も検討すべきです。

加工時の注意点と非磁性の維持

オーステナイト系ステンレスの加工誘起磁性

オーステナイト系ステンレスは本来非磁性ですが、冷間加工によって結晶構造が変化し、部分的にマルテンサイト組織が生成されることがあります。この現象を加工誘起マルテンサイト変態と呼び、曲げ加工、深絞り加工、圧延、切削などの加工で発生します。加工度が大きいほど、また加工温度が低いほど、磁性が強く現れる傾向があります。

この磁性を抑制するためには、以下の対策が有効です。第一に、安定化処理を施した材料(SUS316やSUS316Lなど)を選定すること。これらはニッケル含有量が高く、マルテンサイト変態が起こりにくい組成になっています。第二に、加工後に固溶化熱処理(1000~1100℃での加熱後急冷)を行うことで、マルテンサイト組織をオーステナイト組織に戻すことができます。第三に、加工条件を最適化し、過度な加工歪みを避けることです。

切削加工における工具選定と条件設定

非磁性金属の中でも、チタンやオーステナイト系ステンレスは難削材として知られています。これらの材料は熱伝導率が低く、加工硬化しやすいため、切削時に工具に大きな負荷がかかります。適切な工具材質と切削条件の選定が、加工品質と工具寿命を左右します。

チタン加工では、超硬合金サーメット工具が推奨されます。切削速度は鋼材の1/3~1/4程度に抑え、切り込み量を浅くして送り速度を上げることで、工具への熱集中を避けます。また、十分なクーラント供給により工具温度を管理することが重要です。オーステナイト系ステンレスの切削では、切れ味の良い工具を使用し、加工硬化層の下を切削するように条件を設定します。

アルミニウムや銅は比較的加工しやすい材料ですが、構成刃先(切りくずが工具に付着する現象)が発生しやすいため、高速度鋼(HSS)やダイヤモンド工具など、適切な工具材質を選択します。特に高精度が求められる加工では、切削油の選定と供給方法にも注意が必要です。非磁性金属の加工に関する詳細は、金属加工の基礎知識もご参照ください。

溶接時の注意点と熱影響

非磁性金属の溶接では、熱影響部(HAZ)の組織変化に注意が必要です。特にオーステナイト系ステンレスは、溶接時の加熱によって粒界に炭化物が析出する鋭敏化という現象が起こり、耐食性が低下する可能性があります。これを防ぐために、低炭素グレード(SUS304LやSUS316L)の使用や、溶接後の固溶化熱処理が推奨されます。

チタンの溶接では、高温で酸素や窒素と反応しやすいため、不活性ガスシールドが必須です。TIG溶接(GTAW)が一般的に使用され、アルゴンガスによる十分なシールドを行います。アルミニウム溶接でも、表面の酸化皮膜を除去するために交流TIG溶接やMIG溶接が用いられます。溶接条件の設定ミスは、磁性の変化だけでなく、強度や耐食性の低下にもつながるため、溶接技術の標準化が重要です。

実務での材料選定フローと判断基準

要求性能の整理と優先順位付け

非磁性金属を選定する際は、まず要求性能を明確にします。非磁性は必須条件ですが、それ以外にも強度、耐食性、重量、コスト、加工性、熱伝導性など、多くの特性を考慮する必要があります。これらの要求を必須項目希望項目に分類し、優先順位を付けることで、候補材料を絞り込んでいきます。

例えば、医療用インプラントでは「生体適合性」と「非磁性」が必須項目となり、チタン合金が第一候補になります。一方、電子機器の筐体では「軽量性」「加工性」「コスト」が重視され、アルミニウム合金が選ばれるケースが多くなります。化学プラントの配管では「耐食性」と「非磁性」の両立が求められ、オーステナイト系ステンレスが標準材料となります。

コストパフォーマンスの評価

材料選定では、初期コストだけでなく、ライフサイクルコストを考慮することが重要です。チタンは材料単価が高いものの、耐食性と軽量性により保守コストと輸送コストを削減できるため、長期的にはコスト優位性が出る場合があります。逆に、短期使用や交換前提の部品では、安価なアルミニウムや銅合金の方が経済的です。

加工コストも重要な要素です。難削材であるチタンやステンレスは、工具費や加工時間がかさむため、トータルコストが高くなりがちです。一方、アルミニウムは加工性に優れ、短時間で高精度な加工が可能なため、量産品では有利になります。材料費と加工費のバランスを見極め、総合的なコスト評価を行うことが、適切な材料選定につながります。

試作と評価のプロセス

候補材料を絞り込んだら、実際に試作品を製作し、実環境での評価を行います。磁性測定、機械試験、腐食試験、実装試験などを通じて、設計仕様を満たすかを確認します。特に初めて使用する材料では、想定外の問題が発生する可能性があるため、十分な評価期間を設けることが重要です。

試作評価では、加工工程での問題も洗い出します。例えば、オーステナイト系ステンレスの加工硬化による磁性発現、チタンの切削加工時の工具摩耗、アルミニウムの表面処理の難しさなど、材料特性に起因する課題を事前に把握し、対策を講じます。評価結果を設計・製造部門で共有し、必要に応じて材料変更や工程改善を行うことで、量産移行時のトラブルを最小化できます。

まとめ:非磁性金属の選定ポイント

磁石に反応しない金属には、銅、アルミニウム、オーステナイト系ステンレス、チタンなど多様な種類があり、それぞれ異なる特性を持ちます。材料選定では、非磁性という要求に加えて、強度、耐食性、重量、コスト、加工性などを総合的に評価することが重要です。特にオーステナイト系ステンレスは、加工によって磁性を帯びる可能性があるため、厳密な非磁性が求められる用途では注意が必要です。

実務では、要求仕様の明確化候補材料の比較評価試作による検証というプロセスを経て、最適な材料を決定します。材料データシートやミルシートの確認に加えて、実際の磁性測定や加工試験を行うことで、想定外のトラブルを未然に防ぐことができます。また、材料だけでなく、加工方法や熱処理条件も含めた総合的な管理が、非磁性特性を維持する上で不可欠です。

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