精度を左右する「圧入」の正しい理解と実務で失敗しない設計・加工ガイド

圧入とは何か ― 基本原理と実務で使われる理由
圧入とは、軸径より小さく加工された穴に軸を押し込むことで、寸法差(インターフェレンス)によって生じる締付力を利用し、部品同士を固定する機械要素技術です。ネジや接着剤のように追加部材を必要とせず、コンパクトかつ高いトルク伝達力が得られるため、モーター軸、ベアリング、歯車、プーリーなど多岐に用いられています。圧入に関する基本的な寸法規格はJISのはめあい許容で定義されており、設計ではこれらを踏まえた勘合選定が欠かせません。
また、圧入が選ばれる理由として、以下の特性が挙げられます。
- 追加部材不要でコンパクト
- 振動環境下でも緩みに強い
- 回転体のトルク伝達に適する
- 加工コストが低い
圧入を行う際の表面粗さや材質特性については、摩擦係数を左右するため工程設計でも重要となります。摩擦係数と耐摩耗性の関係は、軸材・焼入れ材の選択を扱った材料選定に関して解説で詳しく解説しています。
圧入に必要な基礎知識 ― 勘合・熱膨張・材料特性
圧入は単純に「穴径より軸径を大きくすれば良い」というものではなく、勘合量によって保持力・変形量・応力が大きく変化します。特に、圧入の成立には寸法差の計算と材料変形の許容性の理解が重要です。
圧入における勘合量とは
勘合量(インターフェレンス)は以下の式で求められます。
勘合量(δ)= 軸径 − 穴径
一般的には以下の範囲が使われます。
| 用途 | 勘合量の目安 |
|---|---|
| 軽圧入(手押し・軽荷重) | 2〜8μm |
| 中圧入(一般機械要素) | 8〜20μm |
| 重圧入(高トルク伝達) | 20〜40μm |
勘合量算出の基準値は、JISはめあい許容で確認できます。
熱膨張を利用した圧入(加熱・冷却)
圧入では部品を加熱・冷却し、寸法を変化させて組付ける「熱圧入」が多く使われます。アルミや鋼材は線膨張係数が異なるため、温度差によって拡大・縮小量が変わります。特にアルミ部品の線膨張は鋼の約2倍のため、温度管理が重要になります。
また、熱による拡径量の計算は以下で求められます。
拡径量(Δd)= 元寸法 × 線膨張係数 × 温度差
温度差が大きすぎると部品の変形や材料内部応力の急変を招くため、実務では安全範囲の温度条件が必要です。
圧入の工程 ― 精度と品質を左右する手順
圧入工程では、単純な圧入機の使用だけでなく、事前準備・位置決め・圧入速度・圧力制御・歪み管理まで総合的に品質を管理する必要があります。工程不良は割れ・偏心・トルク不足につながるため、工程管理は極めて重要です。
圧入工程の一般的な流れ
- 表面洗浄・バリ除去
- 穴・軸の寸法測定
- 温度調整(加熱・冷却)
- 位置決めジグの取り付け
- 圧入機による一定速度での圧入
- 圧入後の保持時間と冷却管理
- 寸法検査(真円度・直角度・偏心)
特に、偏心が生じると回転体のバランスが崩れ、振動や異音を発生させます。
材料別に見る圧入の注意点
圧入は材質によって変形量・保持力・割れやすさが大きく異なります。以下では代表的な金属材料ごとに注意点をまとめます。
鋼材の場合
- 弾性域が広く、圧入保持力が安定しやすい
- 高トルク用途に適する
- はめあい精度はJISのH7/p6やH7/n6が一般的
アルミ材の場合
- 熱膨張が大きく温度管理が重要
- 柔らかいため変形しやすい
- 高荷重用途では母材が先に負ける可能性
ステンレスの場合
- 加工硬化しやすく圧入荷重が上がりやすい
- 焼き付き注意(潤滑必須)
圧入トラブルの原因と対策
圧入は一見単純な作業ですが、トラブルは以下のような要因で生じます。
| トラブル | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 割れ | 勘合過大、温度差管理不足 | 適切なはめあい選定と計算 |
| 偏心 | 入口角度ずれ、速度不安定 | 位置決め治具と一定速度圧入 |
| トルク不足 | 勘合不足、表面粗さ不良 | 寸法測定と粗さ管理 |
よくある質問
圧入に必要な勘合量はどのように決めれば良いですか?
熱膨張を使った圧入はどのような場面で有効ですか?
圧入後の偏心はどのように防ぐべきですか?
アルミ材と鋼材では圧入条件を変える必要がありますか?
まとめ ― 圧入を「失敗しない技術」にするために
圧入は、軸と穴の寸法差による締結力を活かした優れた固定方法ですが、その成立には精密な勘合計算、材料特性の理解、熱管理、工程管理が不可欠です。特に、温度管理・位置決め・偏心管理など、現場での工夫が品質を大きく左右します。

